ゆきの子供達 第三十七章 狐子との会話

狐子がゆきの部屋に入ると、ゆきは隅に座って床をじっと見つめたまま、本を抱えて涙を流していました。それを見た狐子は、ゆきの肩を後ろから叩き、「ゆきちゃん、さあ、涙を拭いて。大切な本が濡れちゃうよ」

狐子が背中越しに優しく声をかけると、ゆきは狐子に背を向けたまま、「殿は私のことを怒っているのかしら?」と、涙を拭いながら尋ねました。

狐子は「嫌いになったわけじゃないわよ。ゆきちゃんの帰りが遅くなったから、殿は心配だったのよ。だから、ついつい本当のお気持ちよりきついお言葉になっちゃったのね。ゆきちゃんがいなくなった後、殿はとても寂しそうだったわ」と、優しく元気づけるように言いました。

ゆきは、狐子の方を振り向き、「本当?」と、まだ涙の残る目で狐子を見つめながら訊ねました。狐子は、「うそなんかじゃないわよ。それより、手紙を書かなくちゃいけないと言っていたじゃない。ほら、蝋燭に火を点けて、その手紙を書いてみましょうよ」と、ゆきの肩をぽんと叩きました。

ゆきは、狐子の手に籠った優しさを感じ取りました。その後、二人はゆらゆらと揺れる蝋燭の灯の下で、殿様と女将宛の手紙を書きました。

最初へ 前へ 次へ 最後へ  目次へ  ホームへ

Copyright © 2006-9, Richard VanHouten RSS Feed Valid XHTML 1.0 Strict Valid CSS!