ゆきの子供達 第四十四章 破壊された村

鬼を退治した後で、ゆきたちは谷の奥の村に向けて旅を続けました。村に着いた時、あちこちに壊れた家が見えましたが、人は誰もいませんでした。

家来の一人が、ある壊れかけた家に走っていき、「父さん!母さん!どこにいるのですか!大丈夫ですか?」と叫びました。

すると「おじさん!」と言う声がして、崩れかけた家の中から、七、八歳の女の子がその家来のところに走ってきました。女の子は興奮した様子で「鬼が出たの!お家がめちゃめちゃにされて!お母さんとお父さんが食べられちゃって!怖かったからずっと穴に隠れてたの!」と、泣き出しました。

家来は、「落ち着いて、落ち着いて。鬼はもう死んだよ。お腹がぺこぺこだろう?」と言い、女の子の頭を優しく撫でました。女の子は泣きじゃくりながら、こくりと頷きました。家来は微笑みながら「後でお腹いっぱいご飯を食べようね。兄弟達と一緒に」と言いました。

女の子は「弟も妹もまだ穴にいる」と、泣きなから指差しました。「おじいさんや、おばあさんは?」と家来が尋ねると、「知らない!」と悲しそうに答えました。

「じゃあ、兄弟を集めて、何か食べよう」と家来は言いました。

それから家来は、穴の中に隠れていた子供達を、ゆき達のところに連れて行き、持っていた糒などを与えました。子供達はよほどお腹が空いていたのでしょう。夢中になって食べていました。そんな子供達を横目に、若殿は、生き残った者を探すために、村の四方に家来を送りました。

しばらくして、家来達が戻り、二、三十人の子供達と、ごく僅かの大人を連れて戻ってきました。家来は「殿、どこも隈なく捜索致しましたが、この者たちしかいないようでございます」と報告しました。

若殿は、「五十世帯の中から生き残った者は、たったのこれだけか…?被害は甚大だぞ」と呟きました。そして、はじめに子供を見つけた家来の方へくるりと振り向き、「お前はこの村にどういう縁があるのだ?」と訊ねました。

家来は、「拙者の家内はこの村から参りました。家内の父はこの村の長で、この子たちは家内の兄の子供なのでございます」と答えました。

ずっと黙っていたゆきが口を開き、若殿に「この村人達を、いかがなさるおつもりですか」と訊ねました。

若殿は、「こんな何もないところに住んでいても仕方がないであろう。村人は、私が他の村か城下町に連れて行こう」と答えました。

ゆきは、「何も残っていないとおっしゃるのですか。あちらをご覧ください!あれでも何もないとおっしゃいますか」と、田んぼ一面に実った稲穂を指差しました。「あれは国の宝ではございませんか。あの田をすぐにでも刈り取らないと、この村からの米の収穫は無くなってしまいます。つまり、この村からの税収も無くなるということです」

「それよりも、この人たちが他の村に連れて行かれたら、一体どのような生活を送ることになるとお思いですか。よそ者として、とても貧しく暮らすことになるに違いないでしょう。私はそのように育ちましたから、よく分かるのです。それでもまだ、他の村などに連れて行くおつもりですか」とゆきは言いました。

「ふむ。それでは何か良い考えでもあるのか?」と若殿は聞きました。

ゆきは、「はい。仮住まいや食料の確保が必要です。まず、壊された家の中から一、二軒を建て直し、倒された米倉のお米が腐ってしまわないように、運び込んで保管しましょう。それに、隣の村や城に使者を送って、彼らの親戚や手伝ってくれる人を呼び集めましょう。家を再建した後に収穫を始め、それから改めて米倉を作ればいいかと存じます」と答えました。

若殿は言いました、「分かった。よし、それではそなたは城へ帰りなさい」

「何をおっしゃいますか。あれらの田んぼの刈り入れが終わるまで、ここに残るつもりです。この侍たちの中で、米の収穫の経験がある者は何人いますか。私はあの子くらいの年頃から、毎年収穫を手伝っていたのです。ですから、今年も収穫を手伝うつもりです」と、ゆきは七、八歳の女の子を指差しました。

若殿は、「なんと。ここに残るつもりならば、ゆきは身重の身ゆえ、あの子たちの子守りくらいにしておいた方がいいだろう」と言いました。

ゆきは、「私より狐子の方が、子守りが上手です。あちらをご覧ください!狐子のお話や面白い顔のおかげで、泣き顔のあの子たちが笑顔になりました。それに、毎年身重の女が稲を刈り取るのを見てきました。私が田んぼで働く方が役に立つでしょう」と答えました。

若殿はため息をつきました。「賛成するしかないだろう」と、家来の中から使者を選びました。

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