ゆきの子供達 第六十二章 旅の初め

狐達が城を出ると、外は酷く冷たい吹雪でした。狐は大声で、「狐子や、先に琵琶法師を瞬間移動で連れていって、人が住める住処を準備させなさい。家老は私が連れて行くから」と言いました。

「父上、どうしてご家老様は私と行けないの?みんなで行きましょう」と狐子は訊きました。

「一週間しかないから、明日の朝早くから試験が始まるんだ。お前も彼の師として参加しなければならないから、二人ともできるだけ早く着いて寝たほうがいいのだ」と言いました。そして、家老を指さしました。「その人は瞬間移動ができない。それに、彼はこんな酷い天気の中にはいられない。尻尾が三本しかないお前は、彼を背負ってうちまで走っていくことができるかい?」

狐子は「分かった。分かったわ」と、溜息をつきました。琵琶法師に向かって、「じゃあ、元の姿に戻って行きましょうか」と、続けました。

「すみません。そういうおまじないはまだ知りません」と琵琶法師は言いました。

「何ですって?まだ教えていなかったっけ?…いいえ、そんなはずはないと思うけど?じゃあ、簡単なおまじないだから、すぐにできるようになるでしょう。こうです」と言って、おまじないの使い方を教え始めました。

「私を背負って走る?なぜですか?狐様、私は馬で行くとばかり思っていましたから…」と家老は困惑したように言いました。

「ほら、家老どの!今夜は、この私があなたの馬です!」と狐は言って、大きな黒い馬の姿に化けました。一瞬だけ七本の尻尾が見えました。「普通の馬より速く走れますよ!乗ってください」

「しかし、鞍も手綱もありませんが…」と家老が言うと、狐はこう答えました。「そういう馬具は必要ないですから、大丈夫です。乗りなさい!」

家老が馬の姿をしている狐に乗ってから、狐は城門へ小走りして行きました。家老は走っている狐に乗ったまま、さっき出た玄関の方を振り返って見ました。渦巻いている雪の向こうには、一瞬だけ二匹の狐の姿がうっすらと見えました。そして、もう一度玄関が見えた時には、その姿はもう消えていました。

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