ゆきの物語 第三十章 狐子の紹介

それからゆきは狐と一緒に若殿のところに行きました。

若殿は、「ああ、狐どの、ようこそお出でなさいました。突然のご訪問はどういった訳でしょうか」と聞きました。

狐は、「つい今し方、近くで鼠狩りをしていると、聞き覚えのある声で、誰かが泣いているのが聞こえました。その声の主を探し当てて驚きました。いったい、どうしてゆきどのが泣いているのだろうかと。若殿さまと結婚して、お父上の国に帰ってきたのだから、すでに幸せを手に入れたのではないかと思っていました。そして、ゆきどのから悩みの相談を受けたのです」と言いました。

若殿は、「なんと。ゆきが泣いていたのですか。どのような悩みがあると聞きましたか」と問いました。

狐は、「それについて触れる前に、まずはゆきどのから、嬉しいお知らせをご報告なさった方がいいでしょう」と、ゆきの方へ向きました。

ゆきは、「私は身籠ったようです」と言いました。

若殿は、「真か。それが真なら、大変喜ばしい」と言いました。

狐は言いました、「ゆきどのの悩みは三つあります。まず一つ目。近頃、生活の変化が大きいので、気分が落ち着かないことがあるようです。私が何か気晴らしを勧めると、ゆきどのは読書が好きだということが分かりました。ただ、ここには面白い本がないようでしたので、お父上に、面白い本をお貸し下さるように手紙をお書きになり、また市場でも探してみるといいでしょうと勧めました」

「次の悩みはというと、ゆきどのが百姓のように育ち、いまだに茶道家のような着物を着ているので、それを好ましく思わない人がいるということです。それ故に、市場で殿の妻として相応しい着物を探し、また大きな町の温泉の女将へ、ここでお仕え願う手紙を送るようにと勧めました。それに、私の娘の内の一匹が人間について興味津々のようですから、もうすぐこちらへ訪ねてくると思います」

「三つ目の悩みは、ゆきどのがこの国の政治から疎外されていると感じていることです。言うまでもなく、ゆきどのは勉強を続けて、あなたと家老との評議に出席した方がいいと勧めました。評議で気の利いた質問を投げかけたり、良い提案を待ち出してみることも勧めました」

若殿は、「評議に参加したいというのなら、明日の評議に出席しても良いでしょう。着物や本のことなら、城の御用商人を呼べばよいではないか」と言いました。

ゆきは、「お抱えの商人があるのでございますか。でも、私は自分で買い物をしたいのです。一緒に行ってくださいませんか。それが無理なら、狐どのと行ってもよろしいでしょうか」と頼みました。

その途端に、小さな声が聞こえました。「私も行きたい」

狐は、「悪戯っ子、姿をあらわせ。いつから私たちを見ていたのか」と棚の方へ向かって呼びかけました。

棚の下から、鼠が出てきたと思うと、あっという間に十五、六歳の女の子の姿に変わりました。

「まぁ、父上ったら。『悪戯っ子』じゃなくって、『狐子』と呼んでください」と言いました。

その娘は背が低くて、長い赤毛で、悪戯っぽく輝く黒目をして、とても高級そうな着物を着ていました。

「私は、今まで、京でいろいろなうわさ話を聞き集めていたのよ。それから家に帰る途中で、父上の『私の娘のうちの一匹が人間に非常に興味を持っています』と話す声が聞こえたの。私のことだとすぐに分かったけど、なんで『一人』じゃなくて『一匹』なんて言うの?この、私の姿が『一匹』に見える?。とにかく、父上の話し声を聞いてから、鼠の姿に化けて声の方に這っていったわ。そしたら父上は女の子と話しているじゃない。きっと、あれが例のゆきという娘さんなんだろうと思って、父上が女の子と一緒に出るところに、ついてきたの。買い物のことを聞いたときは、さすがにもう黙っていられなくなっちゃって」

狐は、「この子がもう一度口を開く前に紹介をしておいた方がよさそうですね。これが今話した娘です。狐子や、こちらはこの国の新しいお殿様と、前に話したゆきどのだよ」と言いました。

狐子は、「初めまして。私もゆきさまと一緒に買い物に行けると嬉しいのですが。しばらくこちらに泊まってもよろしいですか」と言いました。

若殿は言いました、「初めまして」

ゆきは、「初めまして、よろしくね。一緒に市場へ行きましょう」と答えました。

若殿は、「私は忙しいので一緒には行けません。狐どのたちとなら、行ってもいいでしょう」と言いました。

狐は、「お殿様も時々はお休みになられた方がよろしいかと存じます。もし気が変わられましたら、ご一緒に参りたいと存じます。それではまた後ほどこちらへ参ります」と、人間の姿に化けて、ゆきと狐子と一緒に立ち去りました。

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