ゆきの物語 第四十章 最初の村
次の朝、ゆきと若殿は家来と共に最初の村へ向かいました。しばらくすると、道が狭くなり、二頭の馬は肩を並べて歩くことができなくなりました。さらに道がでこぼこになるにつれて、かろうじて一頭だけしか通れないような悪路になりました。若殿は、「酷いな。道がずっとこのような状態ならば、兵をどこかへ急派したい時に、まったく使い物にならないではないか。このまま捨て置くわけにはゆかない」と仰いました。
なんとかゆきたち一行が村に到着することができました。しかし、村には人気がありませんでした。しばらく捜し回ると、一人の老人を見つけました。
家来の一人が、「じじい、ほかのものはどうした?」と聞きました。
老人は、「お侍さまが村にくれば、わしら百姓は苦しみます。それでもお殿さまがじきじきに来られるよりはましであろうと思っておりました。今日、お殿さまがここにいらっしゃるおつもりということを伺いまして、村の者は皆逃げ出し、身を隠しております。わしは先の短い身ですので、ここに一人残っておりました」と言いました。
その家来は、「無礼もの!」と、刀を抜こうとしましたが、「お止めなさい!」という鋭い制止の声の方を振り向くと、ゆきが立っていました。「私共は村の人々を傷つけるつもりはありません。その人を放しなさい」とゆきは命じました。その家来はゆきの言葉に若殿が顎で合図するのを見ると、老人を放しました。
ゆきは馬から降りて、老人のところに近づきました。「おじいさん、父上の時代にも農民がそんな扱いを受けることがありましたか」と聞きました。
老人は突然、顔を上気させ意気込みました。「まさか、今お父上とおっしゃいましたか。もしや、あのお方をお父上とおっしゃっるのなら、あなたはゆきさまではございませんか」と言いました。「ゆきさま、どうかお聞きください。百姓の生活はいつもつらいものではございますが、これほどつらい時代は今までありませんでした。お父上の時代、お侍が理由もなく百姓を殺すようなことがあれば、お父上は直ちにそのお侍を罰されたものでした。しかし、後のお殿さまは、どのような事情があろうと、いつも悪いのは農民ということになり、決してお侍を罰することなどありません。反対に、百姓は取るに足らぬ奴らだとされて、罰を受けております」
ゆきは、「侍でも、農民でも、公正な裁きを受けるべきです」と言いました。「他の住民を探して、私が皆と会いたいと言っていると伝えてください」
それからその老人が出かけゆきの言葉を伝えに急いで出て行きましたが、しばらくすると、村人は一人また一人とどこからともなく集まってきました。ほとんどの村人が集まると、若殿とゆきは農民の言い分を聞き、村の道を整備する旨、税を軽くすることを伝え、それを監督する者を任命しました。