ゆきたちが城に帰ってきた時、日はもう暮れていました。若殿は城門でゆきたちを待っていました。「ゆき、一体なぜこんなに遅くまで帰ってこなかったのだ。市場はとっくに閉まっているのに。それに、一冊の本しか持ち帰っていないようだが、今までずっと待っていたのにどこにいたのだ?」と聞きました。
ゆきは、「ほとんど市場にいました。あそこにいる仕立て屋は狐子のと同じような着物を作っていますよ。それに、町の庄屋に会いました。その方は私たちと一緒に市場のあちらこちらに行って、いろいろな方に紹介してくださいました。その後で、家に連れていってもらい夕食をいただいてて、庄屋と親しく話をさせていただきました。そして、その方の奥さんがこの本を貸してくださいました」と言いました。
狐は、「その通りです」と言いました。
ゆきは、「どうしてそのように厳しい口調でおっしゃるのですか。私は赤子ではありません。祖母が亡くなった後で、一人であの大きな町に歩いて行ったではありませんか」
若殿は、「しかし…」
ゆきは、「結婚式の前、毎晩城から一人で帰ったではありませんか。忍者が襲撃した後でも、それをそのまま続けたではありませんか」
若殿は、「しかし…」
ゆきは、「それに、今回私は一人ではありませんでした。この狐どのは私を何度も助けてくださったではありませんか。この方と一緒にいるのに安全でないとすると、一体どこにいるのが、安全とお考えでしょうか」
若殿は、「しかし…」
ゆきは、「翌日の評議にてお会いしましょう」と、そのまま自分の部屋に帰って行きました。
若殿は、「しかし、心配でなかったら、このように言はせぬ」と言いました。
狐は、「ご心配ではあられましょうが、それでも優しく話された方が宜しいかと存じます」と言いました。
若殿は、「どうしよう?」と聞きました。
狐は「これからゆきどのを一人の大人として扱った方が宜しいかと存じます。私はこれで失礼させていだきますが、ついでに鼠を探してみることにいたします」と、自分の姿に戻って、立ち去りました。
狐子は、「私が使わせていただけるお部屋を見せていただいてから、ゆきちゃんのお部屋を訪ねてもいいですか。もしかして私がお話をすれば、ゆきちゃんは落ち着くかも知れません」と言いました。
それから若殿は下女を呼び、狐子を部屋に案内させ、次いでゆきの部屋に連れて行かせました。