家老がゆきの部屋の障子を開けると、狐子がもうそこに座っていました。「すみません。部屋を間違えたようです」と家老が言って、去ろうとしましたが、ゆきが家老の腕を掴み、「間違いはありません」と言って、顔を真っ赤にした狐子の脇に座らせました。
ゆきはお茶を点て終えると、「あっ!忘れていたことがあります。ちょっと待っていてください」と言って、廊下に出ました。そして、そのままこっそりと聞き耳を立てました。
二人は居心地悪そうに、部屋に留まっていました。時々互いに相手の方をちらちらと見ましたが、目が合うと、すぐさま慌てて目を逸らしました。
ようやく二人は「ごめんなさい」と一緒に言いました。
家老はさっそく狐子の方に目線を向けました。「謝らないでください!全ては私のせいです。あなたのことを思い続けてきたというのに」と強く言いました。
狐子は家老を見つめながら手を取りました。「そんなことおっしゃらないでください!あなたのせいじゃない。早く、本当のこと正直に話してさえいたなら…」と答えました。
二人はただ黙って座ったまま手を取り合って相手の眼を見つめていた。ほんの僅かな間であったのだが、二人にとっては、数時間のように感じられたのでした。ふいに、障子が開きました。ゆきがお菓子を持って戻ってきました。「ただいま」と頬を赤く染めた二人に言いました。
それから二人はお互いを捜し求めていた時のことについて話しました。例えば、どこに行ったのかということや、いつ、どこで、どのように相手の手がかりを探そうとしたのかなど、お互いを探していたときの様子について語り始めました。
「ある日、ある村で赤毛の娘に会ったと言う老婆に出会いました。その娘が数日前、どこかへ出かけたのは見たけれど、どこへ行ったのかは分からないと言いました。その人のことを覚えていますか?」
「ああ、覚えています。あのおばあさんの息子が城に籠城していて、故郷に逃げていっていたという噂を聞きました。だから、そこに行きましたが、私の探していた人ではありませんでした。彼は落城以来、あなたを見かけたことはないといいました」
そのような会話は夜遅くまで続きました。ようやく、二人は笑顔になってそれぞれ自分の部屋に戻りました。