第三十四章
市場の中

ゆきたちが店を出るとすぐに、大きな喝采が沸き起こりました。一人の老人が箱の上に登って、静かにしなさいという合図をしました。人込みが静かになった後で、呉服屋は、「ゆきさま、こちらは今お話しした、町の庄屋でございます」と、箱の上の老人を示しました。「庄屋さま、こちらはゆきさまとお連れの方でございます」
ゆきは、「初めまして、庄屋どの。こちらは私を手伝ってくれている、新しい友達の狐子とその父上です。よろしくお願いします」と言いました。
庄屋は箱から下りました。「初めまして、ゆきさま。こちらは家内と息子、娘、それにその家族でございます。こちらこそよろしくお願いいたします」と、そばに立っている人たちを紹介しました。
ゆきは、「初めまして」と庄屋の家族に言って、庄屋の方へ向きました。「お聞きしたいことがございます。後でお宅にお邪魔してもよろしいでしょうか。その前に、まず、この市場にいる方々に紹介していただけませんか」
庄屋が「もちろん」と言うとすぐに、庄屋の妻は、「あなた、失礼ですが、私たちは家に帰って、食事を準備をしておきます」と、立ち去ろうとしました。
四、五歳の男の子は、「おばあさん、おじいさんと一緒に残ってもいい?」と言いました。
庄屋の妻は、「おじいさんは大事なお話をしているから、私と帰りなさい」と答えました。
ゆきは、「問題ありません。あの子は私たちと一緒にいても構いませんよ」と言いました。
十一、二歳の女の子は、「おばあさん、私も残っていい?あの子のお守りをしなくちゃ」と聞きました。
ゆきは、「賑やかでいいけれども、皆が私たちといたら、おばあさんを手伝ってあげる人がいないでしょ?その食事の時、また会いましょう」と言いました。
庄屋の妻は、「そう仰っていただいて助かります。では、この二人以外の者は皆、帰りましょう」と、立ち去りました。
それから、ゆきたちは市場のあちらこちらに行って、いろいろな商人やその町の有力者などを紹介してもらいました。
庄屋の孫息子は狐子と話していました。「ねえ、どうしてお姉さんの髪はそんな色なの?」と聞いたり、「その顔、おかしい!他のを作って」と言ったり、くすくす笑ったりしました。
庄屋の孫娘はゆきと話していました。「お姉さまはお姫様として生まれたのに、百姓の中で育って、大きな町で有名な茶道家になったんでしょ。すごい!そして、若殿と結婚できて、お父さまの国に帰ってきたんですね。まるでおとぎ話のようだわ」といったり、ため息をついたりしました。
やっと代書屋に着きました。ゆきは、「代書屋さん、『源氏物語』のような本さえ借りてここに持ってくれば、あなたが写本を作ってくださるそうですね」と言いました。
代書屋は答えました、「その通りでございます」
ゆきは続けました、「でも、久しぶりに故郷に帰ってきたばかりですので、どなたからそのような本をお借りすればよいのか分かりません。教えていただけませんか」
代書屋は、「『源氏物語』でしたら、あの方にお聞きになるのがよろしいかと存じます」と、町の庄屋を示しました。
ゆきは、「ありがとうございます」と、次の店へ向かいました。
すべての店を訪ね終えて、人々がほとんど去った後で、ゆきたちは呉服屋に戻りました。そこで狐子は元の着物に着替え、それから皆で庄屋の家へと向かいました。