ゆきの紹介
昔々、ある小さな村にゆきという娘がおばあさんと二人で暮らしていました。ゆきは、とても美しい子でしたが、二人は大変貧しい生活をしていました。村全体も貧しく、若者の姿もあまり見られませんでした。そして、ゆきと結婚したいという者も、誰一人として現れたことはありませんでした。
「ゆきや、お前の幸せを探すために、都に行った方がいいよ」と毎日おばあさんは言いました。
「おばあさまを独りここに残して都へ出かけることはできません」とその度、ゆきは答えました。
ある日、おばあさんは亡くなりました。おばあさんをお墓に葬ってから、ゆきは、なけなしの家財を集め、都へ向けて出発しました。
漁師との出会い
間もなくゆきは海に着きました。砂浜で漁師が網に開いた穴を繕っていました。
「こんにちは、漁師さん。私はゆきと申します」とゆきは言いました。
「こんにちは、ゆきさん」と漁師は答えました。
「よろしければ、私が網を繕うお手伝いをいたします」とゆきは言いました。
「分かりました。ゆきさんが網を繕ってくれるのなら、私は貝を採ります」と漁師は言いました。
それからゆきは砂浜に座りながら網を繕って、その間に漁師は海岸で貝を採りました。
間もなくゆきは網を繕い終わりました。「漁師さん!網を繕いました」と呼びました。
漁師は網をよく見ました。「きれいに修繕できていますよ。前より大分よくなったようです。助かりました。どうもありがとう」と言いました。
「いいえ、あまりうまくできなくてごめんなさい」とゆきは答えました。
「これからどこに行くところなのですか」と漁師は聞きました。
「幸せを探すために都に参るところです」とゆきは答えました。
「そうなんですか。では、頑張ってください」と漁師は言いました。
「頑張ります」とゆきは言いました。
「どうか、感謝の印に貝を半分受け取ってください」と漁師は言いました。
「そんなにいただくことはできません」とゆきは言いました。
「いいえ、つまらないものですよ。この繕っていただいた網で、たんと魚が捕まえられると思いますから」と漁師は言いました。
「本当ですか。では、貝をいただきます。どうもありがとうございます」とゆきは答えました。
それからゆきは貝を懐に入れ、都へ向かいました。
狐との出会い
しばらく行くと、ゆきは焚き火のそばに座って、兎を焼いている狐に出会いました。
「こんにちは、狐さま。私はゆきと申します」とゆきは言いました。
「こんにちは、ゆきちゃん」と狐は答えました。
「美味しそうな匂いがしますね。私はお腹が少し…すみません、狐さま。よろしければ、その兎を分けていただけませんか。私は貝を少し持っているのですが」とゆきは言いました。
「いいですよ。貝を分けてくれれば、私も兎を分けてあげます。ところで、どうしてそんなに美しいお嬢さんがこのような道を一人で旅しているのですか」と狐は聞きました。
「幸せを探すために都に行くところです」とゆきは答えました。
「気を付けて行くのですよ」と狐は言いました。
「はい。ありがとうございます」とゆきは答えました。
それからゆきは貝を開け始めました。驚いたことに、それぞれの貝の中に大きな真珠が入っていました。
「あの、狐さま、この貝の中に入っている真珠もお受け取りください」とゆきは言いました。
「そんなにもらうことはできません」と狐は答えました。
「一粒だけでも受け取ってください」とゆきは言いました。
「あなたのような気前の良い人間には、これまで一度も会ったことがありません。それでは、真珠を一粒と、数本の尻尾の毛とを交換しましょう。もし身の危険を感じるようなことがあったら、この尻尾の毛に触れながら『助けて』と三回唱えてください。そしたら、私たち一族はあなたを助けるためにそこに現れます。三度までなら助けてあげましょう」と狐は十本くらいの毛を尻尾から抜き取りながら言いました。
「そんな大切なものをいただくことはできません」とゆきは言いました。
「たいした物ではないですよ」と狐は言いました。
「そこまでおっしゃるのなら、ありがたく頂戴します」とゆきは真珠と尻尾の毛を交換しながら言いました。
兎と貝を焼きながら、ゆきは残りの真珠を懐に入れました。そして尻尾の毛を結って腕飾りを作り、自分の手首に巻きました。
二人が兎と貝を食べた後でゆきは「ご馳走さまでした。いただいたばかりで申し訳ないのですが、そろそろ失礼します」と言って町へ向かいました。
商人との出会い
ゆきは都を目指して旅を続けました。歩き通しだったので、日が沈む頃になるとお腹が減り始めました。ふと足を止めると、ゆきは美味しそうな匂いが辺りに漂っていることに気がつきした。
「どこからあんな美味しそうな匂いがしてくるのかしら」とゆきは思いました。周りを見回すと、道端に天幕が張ってあるのを見つけました。天幕に近付くと、その匂いはいっそう強くなりました。
天幕に着いた時、ゆきは天幕の後ろにいる呉服商を見つけました。その商人は夕食の仕度をしているところでした。
「ごめんください」とゆきは商人に話しかけました。
「どちらさまですか」と商人は尋ねました。
「はい、ゆきと申します。美味しそうな匂いに誘われてまいりました」とゆきは答えました。
「そうですか。かわいそうにお腹を空かしているんですね。そうだ。お茶を入れてくれませんか。一緒に食べましょう」と商人は言いました。
「ありがとうございます」とゆきは答えました。
それから、ゆきは湯を沸かして、お点前を披露しました。
商人は、「確かに良いお茶を使ってはいるのですが、それでも元の味を忘れてしまうほどの結構なお点前でした。そんな見事な茶道を、都以外で目にすることが出来るとは思いもしませんでした」と、驚きました。「どちらでこれを習いましたか」
「祖母が教えてくれました」とゆきは答えました。
「あなたのように美しく、そして見事な茶道で美味しいお茶を入れることの出来る娘さんには、絹の着物がよく似合うと思います。ちょうどここに、綺麗な絹製の着物がございます」と商人は言いました。
「そうですか。そういったものを今まで着たことがありませんでした。ぜひ、着てみたいのですが、お金がありません」と、うつむきながら答えた時、旅の途中で漁師から貝をもらったことを思い出しました。ゆきは懐の中の真珠を取り出しながら、「これと交換していただけませんか」と言いました。
「これほど大きな真珠を今まで見たことがありません」と商人は言いました。「その真珠一粒と引き換えに、私の一番綺麗な絹製の着物をさしあげます」
「これほど綺麗な着物を旅路で着ることはできません。きっと汚してしまうでしょうから、もしよろしければ、包んでくださいませんか」とゆきはお願いしました。
「はい、もちろんですとも。ありがとうございます」と商人は言って、ゆきから真珠をもらい、一番綺麗な着物を包んでゆきに渡しました。
「どうしてあなたのような美しいお嬢さんが、このような道を一人で旅しているのですか」と商人は聞きました。
「幸せを探すために都に行くところなのです」とゆきは答えました。
「そうですか。でも、この道を一人で旅するのは危険ですよ。今夜私のそばで寝た方がいいでしょう。そうすれば、ここで私が護衛をすることができますから。私は、明日、発ちますが、その都の方へは行きません」と商人が言いました。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、今夜ここで寝させていただきます」とゆきは答えて、持っていた布を地面に広げ始めました。
「地面で寝るのはかわいそうだ。私の天幕で寝てもかまいませんよ。そこの垂れ幕で仕切りますから、ご安心なさい」と商人が言いました。
「はい。では、そうさせていただきます」とゆきは答えました。布を開いたとき、一冊の本が落ちました。
「それは何ですか」と商人は聞きました。
「家系図です。私は家族の最後の子孫なので、他に誰も受け継ぐ人がいません」とゆきは答えました。
助けて!
次の朝、商人は手紙をゆきに渡して「都に着いた後で、温泉に行ってこの手紙をそこの女将に渡してください。その人は私の姉なのです」と言いました。
「分かりました。必ずその手紙をお姉さんにお届けします」とゆきは言いました。
それからゆきは都へ向かい、商人は別の方へ行きました。
間もなくゆきは浪人らに出会いました。
「こんにちは、お侍さま。私はゆきと申します」とゆきは浪人の頭に言いました。
「ふふふ。なんでそんなに美しい娘がこんな道を旅しているのかな」と頭は言いました。
「幸せを探すために都に行くところです」とゆきは言いました。
「今日はついてるぞ」と頭は言ってゆきを掴みました。
「そうだな」と他の浪人が言いました。
「いや!侍じゃない!山賊だわ!手を離して!助けて助けて助けて!」とゆきは叫びました。
あっという間に一匹、二匹、ついには百匹もの狐が浪人の間に現れて、浪人を咬んで躓かせました。
「畜生!妖怪が!逃げよう!」と浪人は言いました。
「このお嬢さんは俺が守っている。貴様のような奴は彼女に指一本触れてはならんぞ」と狐は浪人の頭に言いました。
それから浪人は皆狐に追われて逃げていきました。
「狐さま、助けてくださってどうもありがとうございます」とゆきは言いました。「真珠をもう一粒差し上げましょうか」
「そんなに貰うことはできませんよ」と狐は答え、「あともう二回まで私を呼んでも構いません。さあ、気を取り直して、旅を続けなさい」と励ましました。
「どうも、ありがとうございます。それでは失礼します」と言って、都へと歩き始めました。
都に到着
間もなくゆきは都の門に着きました。
「こんにちは。私はゆきと申します。どうぞよろしくお願いします」とゆきは門番に言いました。
「なんで君のような子がこの町に一人で来るんだ」と門番は言いました。
「幸せを探すためです」とゆきは答えました。
「では、この町に仕事があるんだな」と門番は言いました。
「そうです。あっ、それと、この手紙を温泉の女将にさしあげることになっているのです」とゆきは門番に手紙を見せながら言いました。
「それが本当なら、町に入っても構わない。しかし、もし三日以内に仕事が見つからなかったら、町を去らなければならんぞ」と門番は言いました。
「はい、分かりました。すみませんが、温泉はどこですか」とゆきは聞きました。
門番が道順を教えた後で、ゆきは間もなく温泉に来ました。
「ごめんください」とゆきは呼びました。
「いらっしゃいませ」と女将は返事をしながら、出てきました。
「こんにちは。私はゆきと申します。女将さんに話をさせていただいても宜しいですか」とゆきは聞きました。
「こんにちは、ゆきさん。私が女将です」と女将は言いました。「いかがなさいましたか」
「実は、旅路で、とある商人さまと出会いました。商人さまは、この手紙を温泉の女将であるお姉さまに渡してくださいと言いました。こちらをどうぞ」とゆきは手紙を女将に渡しながら言いました。
「どうぞ上がってください。その間に読んでおきますから」と女将は言いました。
「お邪魔します」とゆきは言いました。
「ああ、弟はあなたのお手前は素晴らしいと書いております。そのお手並みを拝見したいと思います。弟から貰った、その新しい絹の着物を着た後で、茶の湯を点ててください。もしあなたが弟の言う通りの方なら、ここで雇いますよ」と女将は言いました。
「はい。でも、私は少し汚れております。こちらの新しい絹の着物を汚したくないと思っているのですが」とゆきは言いました。
「あ、そうですね。どうぞ、あちらがお風呂になっています」と女将は言いました。
お風呂に入って絹の着物を着てから、ゆきはお点前を披露しました。それを見届けてから、女将は、「どうやら弟が申していたよりも、ゆきさんの茶の湯の腕は達者のようですね。こんなに素晴らしいお手前を、十五年以上もの間見たことがありません。失礼をいたしました。どうぞここにお留まりください」と深い会釈をしながら言いました。
「どういたしまして。誠に粗末なものでしたが」とゆきは言いました。「よろしければ、ここで勤めさせていただきたいと思います。でも、私はこの町に着いたばかりです。住まいもなく、お金もありません。こちらに貝から見つけた真珠が少々あるだけです」と、ゆきは懐から真珠を取り出して言いました。
「それでは、その真珠を使って首飾りを作ると良いでしょう。ここにある部屋に住んでも結構です。明日、私とゆきさん、二人で一緒に買物をしましょう。真珠の首飾りを作るのに宝石商に行ったり、絹の着物をもう少し買いに弟の店に行ったりしましょう」と女将は言いました。
「しかし、お金がありません」とゆきは言いました。
「心配しないでください。お金は私がお貸しします。この町一番の茶道家なんですから、すぐにも返すことが出来ますよ」と女将は言いました。
買物
次の朝ゆきは早く起きました。古い服を着てから、温泉の掃除を始めました。しかし女将はゆきを見て、「この町一番の茶道家がそんなことをする必要はありません。さあ、絹の着物に着替えて買い物に行きましょう。真珠を忘れないようにしてください」と言いました。
女将はゆきの素性が気になるのか、市場に行く間に、色々と質問をしました。
「どちらで茶道を学んだのですか」と女将は聞きました。
「実は、祖母から茶の湯を習いました」とゆきは答えました。
「お母さんや、お父さんは?」と女将は聞きました。
「母も父も私が生まれてから間もなく亡くなりました」とゆきは答えました。
「そうですか。あなたは今、おいくつですか」と女将は聞きました。
「今年で十七歳になります」とゆきは答えました。
「そうですか。お祖母さんのお名前を教えていただけませんか」と女将は聞きました。
ゆきがお祖母さんの名前を教えた頃、最初の店に到着しました。
女将が「その名字…」と尋ねかけた時、番頭が店先に現れました。「あっ、番頭さん、こちらはうちの新しい腕利きの茶道家、ゆきさんです」と紹介しました。
それから女将は次々と店を巡って、ゆきを商人に紹介して回りました。
程なくすると、新しい茶道家について、町の住民が皆口にするようになりました。温泉に行ってゆきの茶の湯を見た人々は皆驚き、ゆきの茶の湯の腕を褒めました。その後の数日間、温泉はかつてないほど賑やかでした。
若殿との出逢い
城の中でも新しい茶道家の腕について皆が話題にしていました。殿さまの長男が家老に「その新しい茶道家の名高いお点前を、今晩にでも見てみたい。温泉に行って、手筈を整えてくれ」と言いました。
「畏まりました」と家老は言って、温泉へ出かけました。
家老は温泉に到着すると、「女将、茶の湯の予約をしたいのだが」と言いました。
「はい。来週はいかがですか」と女将は言いました。
「今晩はどうだ。若殿さまが城で新しい茶道家のお手前をご覧になりたいとおっしゃっておる」と少し急き立てるように、家老は女将に言いました。
「若君さまですか。はい、はい、今晩の予約を入れておきます。今晩必ず城に行かせます」と女将は快く答えました。
家老が去った後で、女将はゆきのところに行きました。「ゆきちゃん!今晩、若さまが城であなたのお手前を見てみたいそうです。新しい真珠の首飾りと一番きれいな絹の着物を着ていきなさい」と言いました。
その日、温泉は早めに店じまいしました。女将はゆきが城に行くために身支度をするのを手伝いました。その夕刻、ゆきは城に行きました。若殿の部屋に案内された後で、「はじめまして。温泉の茶道家、ゆきと申します。どうぞよろしくお願いします」とゆきは言いました。
「はじめまして、ゆき殿。よろしく」と若殿は言いました。
それからゆきはお点前を披露しました。「あなたは本当に達者な茶道家ですね。毎晩ここに来て、お点前を披露してください」と若殿は言いました。
ゆきは「誠にお粗末ではございますが、お望みでしたら、必ず毎晩ここに来て、お茶を点てさせていただきます」と言って、温泉に帰りました。
ゆきが去った後で、「あんな美しくて達者な茶道家を見たことは今までなかった。姫のような風貌だ。彼女のことをもっと知らなければならん。彼女のことを手を尽くして調べておくように」と若殿は家老に言いました。
家老は「お望みとあれば、何でもいたします」と答えました。
家老の調査
次の日、家老は温泉に行きました。「女将さん、わしは若殿さまより、新しい茶道家のことを調べ尽くすようにと仰せを賜ってきた。彼女について知っていることを全部教えてください」と言いました。
女将は「そうですね。ゆきは数日前この温泉に来て、弟の手紙を渡しました。二人は道で出会って、ゆきは弟に茶の湯をしました。ゆきは小さな村でお祖母さんに育てられたと言いました。親はゆきが生まれてから間もなく二人とも亡くなったと言いました。家系図の本を持ってきました」と言って、おばあさんの名前を教えて、手紙を見せました。
「そうか。十五年ぐらい前、その名は名高かったようじゃ。その家系図を見てみたい」と家老は言いました。
女将は家老をゆきのところまで導いて「ゆきちゃん!若殿の家老さまがあなたの家系図を見てみたいと仰っています」と言いました。
それからゆきは家老に家系図を見せました。家老は家系図をつぶさに検めました。「この紋はよく覚えておる。本当にあなたの家紋かの」と言いました。
ゆきは「それは分かりません。この本にそう記されているだけですから」と答えて、小さな村の生活と旅路のことを語りました。
それから家老は温泉から去り、使者を小さな村に派遣しました。
毎晩ゆきは城に行って、若殿に茶の湯を振舞いました。ある夕べ、若殿は狐の尻尾の毛で作られた腕飾りに気づきました。「ゆき殿、どうしてそんな腕飾りを手首に巻いているのか」と聞きました。
「この腕飾りですか。実は、幸運のお守りなのです。これは道で出会った狐に頂いた尻尾の毛で作られています」とゆきは答えました。それからゆきは若殿に旅路のことを語りました。
家老の調査報告
数日後、家老は若殿に報告しました。「若殿さま、例の茶道家を調べ尽くしました。十五年ぐらい前、ある老婆が赤子だった孫娘とある小さな村に落ち着きました。その後、そこで静かに二人で貧しい生活を送りました。数週間前、老婆は死んで、孫娘は村を去りました。
「その日、ある漁師がその村からこの町まで来る途中で、その娘と出会いました。娘は漁師の網を繕って、漁師は娘と貝を分けました。娘は、そのときは毛の腕飾りを手首に巻いていませんでした。
「その夕べ、ある服の商人が(温泉の女将の弟なのです)その道の途中で娘と出会いました。娘は毛の腕飾りを手首に既に巻いていて、貝の中で見つけたという真珠と家系図を持っていました。商人は娘に女将宛の手紙を渡しました。
「次の日、女将への手紙を持ち、毛の腕飾りを手首に巻いていた娘は、この町の門に来ました。温泉への道順を聞きました。その後間もなく、毛の腕飾りを手首に巻いていた娘は温泉に来て、商人からの手紙を女将に渡しました。女将は娘を茶道家として雇いました。
「商人達は皆、娘がゆきと名乗ったことを確認しました。狐と山賊の実在は確認できません。しかし、漁師が娘と会った砂浜と商人の野営地との途中に、焚き火の灰と貝が見つけられました。
「ご存じかもしれませんけど、十五年ぐらい前、ある大名が倒されて城が火事で焼け落ちてしまいました。その大名には、有名な茶道家の母親と赤子の娘がいました。その時、母親と娘は火事で死んだと皆思いましたけど、遺体が全く見つけられませんでした。大名の母親の名前と若い茶道家の祖母の名前は同じです。また、大名の家紋は若い茶道家の家系図にあります」と家老は言いました。
「面白い。父上に教えた方がいい」と若殿は言いました。それから二人は殿さまのところに行って、家老は報告を繰り返しました。家老が終った後で、殿さまは「そなたは、その娘に興味があるのか」と若殿に聞きました。
若殿は「もし父上が了承をしていただければ、茶道家と結婚するつもりでございます」と答えました。
「その茶道家を一目見てみたいと思う」と言いました。
その夕べ、ゆきは殿さまの部屋に招かれました。「はじめまして。温泉の茶道家、ゆきと申します。どうぞよろしくお願いします」と言いました。
殿さまは「そなたの風貌、、、。うむ、懐かしい」と呟きました。
ゆきがお手前をした後で、殿さまは「そなたのおばあさまにうりふたつだ。彼女はよく教えたものだ」と言いました。
ゆきは「左様でございますか。殿さま、よくまあ私の祖母をご存知でしたね?」と聞きました。
殿さまは「そなたのご両親も亡くなる以前存じ上げておった。そなたの父上は偉大な人物で、わしと友達だった」と言いました。
「祖母は親については何も話しませんでした。教えてくださいませんか」とゆきは尋ねました。
「うむ。しかし、まず息子が申したいことがある」と殿さまは言いました。
若殿は「ゆき姫、もし私と結婚してくだされば、必ず幸せにします」と言いました。
「いえ、私は姫ではございません。私のような女は若殿と結婚できません。分かりません」とゆきは言いました。
「君の父上は大名だった」と殿さまは言いました。
「なんと言ったらいいか…。けれどももし若殿さまがそうお望みならば、覚し召すままに」とゆきは言いました。
それから三人で長らく喋りました。
忍者の襲撃
一方、ある妬み深い老婆