目次(もくじ)

  1. 第一章(だいいっしょう)  ゆきの子供達(こどもたち)
  2. 第二章(だいにしょう)  蓮(れん)は何(なに)をしている?
  3. 第三章(だいさんしょう)  狐子(ここ)の捜索(そうさく)
  4. 第四章(だいよんしょう)  助(たす)かった
  5. 第五章(だいごしょう)  旅(たび)の勧(すす)め
  6. 第六章(だいろくしょう)  殿(との)との茶席(ちゃせき)
  7. 第七章(だいななしょう)  旅(たび)の準備(じゅんび)

第三章(だいさんしょう)

狐子(ここ)の捜索(そうさく)

ゆきの部屋(へや)を出(で)ると、狐子(ここ)は狐(きつね)の姿(すがた)に化(ば)けてから台所(だいどころ)へ向(む)かって人間(にんげん)よりも速(はや)く走(はし)った。勝手口(かってぐち)を抜(ぬ)け出(だ)すと、鼻(はな)を地面(じめん)に近(ちか)づけて蓮(れん)の匂(にお)いを見(み)つけようとした。後(うし)ろからの「きゃあ!狐(きちね)が台所(だいどころ)にいた!」という叫(さけ)びにも、「気(き)にしないで、その狐(きつね)はきっと狐子様(ここさま)か狐一様(こいちさま)でしょう」という声(こえ)にも構(かま)わず、匂(にお)いの手掛(てが)かりを辿(たど)って駆(か)けて行(い)った。

しばらくすると、狐子(ここ)は塀(へい)の向(む)こうにまで生(は)い茂(しげ)った大(おお)きな枝(えだ)の桜(さくら)の木(き)の下(した)まで来(き)た。その木(き)の周(まわ)りに匂(にお)いが続(つづ)いていないことを確認(かくにん)してから、猫(ねこ)の姿(すがた)に化(ば)け、木(き)を上(のぼ)り、塀(へい)の向(む)こう側(がわ)に下(お)りた。

今度(こんど)は犬(いぬ)の姿(すがた)に化(ば)け、また蓮(れん)の匂(にお)いを見(み)つけてから、匂(にお)いを辿(たど)って町(まち)に入(はい)った。(町人(まちびと)は城(しろ)の者(もの)ほど狐(きつね)に慣(な)れていないから、その姿(すがた)で城下町(じょうかまち)に入(はい)ると問題(もんだい)が起(お)こるだろう)町(まち)に入(はい)ると、蓮(れん)の匂(にお)いは人々(ひとびと)の行(い)き来(き)で掻(か)き消(け)されたのか、狐子(ここ)は僅(わず)かに残(のこ)った匂(にお)いを頼(たよ)りにゆっくり進(すす)むしかなかった。十字路(じゅうじろ)に来(く)ると、方向(ほうこう)を確認(かくにん)するために行(い)ったり来(き)たらしているうちに、さらに時間(じかん)がかかってしまった。

蓮(れん)の匂(にお)い以外(いがい)に何(なに)も気(き)がつかないほど注意(ちゅうい)を鼻(はない)に集中(しゅうちゅう)していた狐子(ここ)は無論(むろん)、周囲(しゅうい)の豊(ゆた)かな町並(まちな)みが貧(まず)しく寂(さび)れてきたことにさえ気付(きづ)く余裕(よゆう)はなかった。遠(とお)くから微(かす)かに聞(き)こえる「誰(だれ)か、助(たす)けて!」という金切(かなき)り声(ごえ)が狐子(ここ)の意識(いしき)に触(ふ)れたが、それがどこから聞(き)こえて来(き)たのか、蓮(れん)と関係(かんけい)があるのかさえ確信(かくしん)がないまま、一瞬(いっしゅん)足(あし)を止(と)め、ちらりと辺(あた)りを見回(みまわ)したが、また鼻(はな)を地面(じめん)に戻(もど)し何(なに)か手掛(てが)かりはないか捜(さが)し続(つづ)いた。

ようやく、踏(ふ)みつけられて泥(どろ)だらけになった数枚(すうまい)の紙(かみ)に辿(たど)り着(つ)いた。その匂(にお)いを嗅(か)ぐと同時(どうじ)に、道端(みちばた)から「お前(まえ)があの子(こ)を捜(さが)しに来(き)たのなら、もう遅(おそ)いな」という声(こえ)がはっきり聞(き)こえた。声(こえ)をする方向(ほうこう)を振(ふ)り返(かえ)った狐子(ここ)は人間(にんげん)の姿(すがた)に戻(もど)り、「あんたは…」と言(い)いながら二階(にかい)建(た)ての家(いえ)の壁(かべ)に寄(よ)り掛(か)かっている男(おとこ)を睨(にら)んだ。